自然を大幅に導入した都心部再開発計画として、全国に先駆けた理念と建設手段を設定した過去二回の「前橋駅北口再開発構想」の先進性は、現在、白熱する都市計画論議の渦中にあってますますその価値を高めつつある。その骨子である、都市機能を損なうことのない都心の自然共生化は人体ひいては都市機能の高免疫化に注目される今般、すでに具体的な街並み整備のプロセスを設定済みであるという点において、日本全国のみならず、世界的にも先進的なものであったことは、すでに承知のことであると思う。
しかし、その事実もひいては、前橋市という、赤城山南麓という絶好の自然条件と、北関東の中心という交通条件、そして高い文化条件に恵まれた、素材がもたらすものであり、私たちは現代の都市計画に携わるものとして、この絶好の条件において21世紀の最良の都市環境を実現する義務があると言ってよい。そして、何よりもさまざまなパラダイムシフトの波と、自然共生の試行錯誤に揺れる現在の日本において高い文化的情操の危急を目指した都市環境の実現は何よりも求められていることであり、前橋市がその先鞭をきることは明治時代の文化的、文明的な影響力を回復することを意味している。
また市中心商店街(例えば弁天通)において、街区的なモチベーションが衰退し、中心部の活気が薄れていることは憂慮すべきことであり、前橋市都心部再生においても、意欲的で未来的な再開発事業は、前橋市民としての自覚の活性化を強く促進するプロジェクトとなるであろう。
今回、前2回の骨格を守りつつ、その一つの重要なバリエーションとして、ご提案を試みるのは、そのシンボル的な建築物とメディアになるべき、前橋駅々ビルの現実的なデザインとそのコンセプト、および、文化的、商業的な設定案である。この一つの建造物に、「パラダイス・シティー」のすべての条件とヒントが凝縮されているといっても過言ではないと私たちは思う次第である。
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環境
前橋駅北口再整備における最重要ポイントは都市-におけるハードウェアの創出ではなく、むしろ、従来の都市においては考えることのできなかった環境の創出である。第一次案で提案した駅前部分の森林化や、駅ビル自体の緑地化というポイント的な改善や建設だけでなく、ゼロエミッションや生態系の最良化までをも含んだ視点を導入して、前橋市全体の居住環境の最適化への端緒となるべきものでなければならない。駅ビルに焦点を絞った今回の構想においても、前橋市のテーマである「水と緑と詩の街」に表される緑化と文化のシンボル的な環境へのメッセージは大胆に盛り込まれている。そのポイントは以下のとおりである。ここに関係者各位にご検討をお願いする次第である。
- 駅ビル外壁は「土」を象徴する煉瓦と森林をイメージした植栽、前橋の河川を連想させる水の流れに覆われ、自然観を現出すると同時に、あえてクラシックな印象を持つことで市民に愛された旧ビル駅舎を連想させるものとする。特に「煉瓦」は前橋近代文化の象徴として街区全体のモチーフとすることは前2回の構想に述べたとおりである。
- 形態的には前プランより現実的な選択を行った今回の駅ビルデザインであるが、屋上庭園を始めとして、その建物全体は緑と水に覆われ、都心の公園としての機能を強化する。それによって、従来は商業機能ばかりが強調されがちだった駅ビルに「憩い」、および「娯楽」、そして「癒し」機能を積極的に導入する。
- いわば、「公園」の入れ子構造とも呼ぶべき発想を採用し、さまざまなアート・パークを組み合わせることによって、「憩い」機能にテーマ・パーク性を加味する。
- 多種多様な「森林」構造を採用したグリーン・テラスの実現によって、環境改善をうながす小生態系を完成する。
- 屋上から道路レベルそしてまた屋上と循環する「水」の流れを導入することによって、周囲の騒音レベルを緩和し、駅につきものの音公害を改善する。
- 緑地部分全体に「ガーボックス」構造を採用し、駅ビル自体のゼロエミッション化を図る。
- 内部にも環境の連動を図り、野外的な雰囲気の構造の中で長時間滞在型の空間を実現する。
- 居ごごちよくまた印象的にデザインされた商業施設と現代的なホテル、そして市民の情操を高める文化施設の出現によって、この街区の市民への誘引力を高め、都心部活性化への相乗効果を追求する。
- 活性化を真に実現するためには、街区全体的な視点が不可欠であり、あくまでこの建物一つで完結するような計画は避けるべきであり、将来の街区発展のステーション的位置づけを行う。
以上のようなポイントを前提として、想定した各部開発のコンセプトは以下の通りである。またこの計画は以前ご提案した新交通システムの導入により、一層その効果を高めるものである。
建築
「丘陵」という挑戦的な概観を目指した前プランの長所を極力生かしながら、より機能的な構造を獲得するために線路を挟んだツインタワー構造を採用する。屋上には広大なグリーン・テラスを建設し、展望とあわせてアミューズメント・パーク機能を導入するとともに、各階にふんだんに用意された緑化部分と水と経路で連結することによってビル自体をテーマ・パーク化する。
また、上毛の自然環境と同調するべく配置された水と緑の機能はシームレスに内部構造に連結する。ここでは、外部と同じように煉瓦と石がふんだんに使用され、前橋市が提携するオリビエート市の環境のイメージへと連想されながら建築全体で前橋市の古今の文化を表現していく。内部にも大胆に「水」のイメージを採用し、散策することそれ自体が娯楽と憩いになるような空間を実現する。
商業機能
1.モール
市民の都心回帰現象をうながすために吸引力の高いモール構造の商業施設を建設する。その全体のイメージは各世代にまんべんなく共感を得るために前橋市民の記憶に深く残っている明治時代の面影と、新たな国際関係の端緒となるイタリア、オリビエート市との提携を強調するものとする。両者はともに、昨今のレトロ・ブーム、イタリア志向によって深く日本国民の心を捉えており、幅広い展開とトータルなイメージ作り、および装置の開発いかんによっては商業施設自体がテーマパーク機能を兼ね備えることが可能であると思われる。加えて、両要素を文明開化-西洋化-日本近代の形成という視点で捕らえればそこに原点を持つ伝統工芸から近代デザインにいたるテーマショップによる街区作りも効果を発揮するに違いない。またその全体は水と緑によって外部と連結し、屋内に居ながらにして野外を散策するような楽しみを享受することができる。
デザインとコーディネーションには新進気鋭の牛建務氏を起用し、同氏のネットワークによって海外のテーマパークプロデューサーたちにも計画への参加を依頼する。
出展企業候補
イトーヨーカ堂、サントリー、サッポロビール、アパレル関連産業など。
2.ホテル
文化都市前橋において最も欠落しているものはプレステージ性の強いホテルではないだろうか。新しい前橋のシンボルとなる当駅ビルにテナントとして、認知度の高いホテルチェーンを誘致することは、市の活性化につながる事業であると思われる。ホテルの存在はビルの機能を倍加し、多種多様な業態開発をうながすものであるから必要不可欠事項として取り組まなければならない。加えて、近年、日本においても、ハイデザインを取りいれたホテルは文化施設としても機能しており、若年層へのアピール度も高い。
誘致ホテル候補
グランビア(メトロポリタン)、ロイヤルパーク、ハイアット、リーガロイヤルなど。
3.文化施設
このような規模のビル開発事業においては文化施設の導入は不可欠なものである。また、交通至便、前後の娯楽装置にも事欠かないトポスに存在する、という背景は、単独で成立することが難しく、観客動員にも困難が予想される文化施設にも相乗効果作用を与えるに違いない。加えて、市民から要求の高い施設や福祉施設と、娯楽性の強い装置を組み合わせることで多世代に共感を得る文化環境を構築できると思われる。
施設候補
現代美術ギャラリー、デザインギャラリー、漫画博物館(閲覧機能あり)、アニメーション・シアター(レストラン機能あり)、シネマ・コンプレックス、インターネット・ポストオフィス、多目的ホール、市民文化・ポート・センターなど。
4.住宅およびオフィス
最近の都心部復活現象を刺激し、都心の安定した人口の回復をうながすためにオフィスのみならず、居住部分を駅ビルに設定することは21世紀の街づくりを考えた場合、先進的な事業であり、全国へのアピール度も高い。しかしながら、従来型の住居は住民の対象設定において困難が予想されるため、ここで提案したいのは職住一体型の24時間型オフィス=居住システムである。情報産業をはじめ在宅型の労働と、SOHO理念の浸透によって、自宅のオフィス化が加速しているが、交通至便な立地と、人にやさしい環境を併せ持つこの場所における住宅開発は市外の高感度な層にも強くアピールし、前橋移住への刺激ともなると思われる。
合弁企業候補
JR、大京、ミサワホーム、積水、など。
5.飲食および娯楽施設
さまざまに展開された各施設を意識的に横断させる装置として、キャラクターにバリエーションを持たせた飲食と娯楽施設を導入する。私たちが考える「ハイパー駅ビル」においては、駅自体が街区そのものであり、さまざまな刺激に満ちた誘引効果を持たなければならない。そのためには市民に憩いと癒しを与えてくれる多種多様な飲食装置と、半ば非日常的な娯楽装置は他装置への波及効果を考えると欠くべからざるものである。
6.教育施設
市民のためのカルチャースクール、専門学校、塾、大学等の公開講座など、交通の便利さと良好な環境を利用して、教育機関を誘致する可能性は高いと思われる。名護や駅前などの様に教育施設が駅前に乱立する昨今であるが、駅舎部に導入することにより、テナントの安定を図り、また駅周辺部の商業施設の可能性を広げることができる。